本書は、内田百?の名著「阿房列車」シリーズを素材として、写真、車両形式図、当時の列車編成記録などを交えて趣味者の視線で考察し、昭和20年代の鉄道旅行について解説を加えた著作です。「阿房列車」シリーズの刊行からすでに半世紀以上が経過して鉄道旅行も大きく変化していますが、本書では「阿房列車」の描写が若い読者でも理解できるように丁寧に解説され、昭和20年代における国鉄職員の応対や乗客の様子を浮き彫りにしています。単に鉄道文学を解説しただけの類書が多い中で、これまでにない視点で「阿房列車」を解説し、文学と鉄道趣味を結び付けた好著として本賞にふさわしい著作として選定しました。
森林鉄道は、山林における木材の運搬などに用いられていた産業用の鉄道で、日本ではその大半が姿を消してしまいましたが、貴重な写真などを交えながら森林鉄道のかつての姿を紹介した作品です。著者はすでに『木曽谷の森林鉄道』(企画室ネコ/1987)をはじめとして森林鉄道に関する著作をいくつか出版してきた実績がありますが、本書では全国から30カ所の森林鉄道を選んで総論的に解説しています。「情景」というタイトルが示すとおり、写真と図版を交えながら解説され、森林鉄道になじみの無い読者にもその概要を知ることができます。著者の長年にわたる研究成果が集大成された著書として、島 秀雄記念優秀著作賞にふさわしい作品として選定しました。
著者は、鉄道システム工学の専門家として、『鉄道ダイヤのつくりかた』(オーム社/2012)などいくつかの専門書や一般書を出版していますが、受賞作は鉄道輸送サービスでも特に重要な「運転整理」について、身近な実例を引きながら紹介した著作です。特に必要な図表をカラー印刷し、よりわかりやすい解説に配慮した点は高く評価されます。社会的にも関心が高い話題をとりあげ、事例を紹介するだけではなく、専門家による今後の旅客サービス向上のための提案なども盛り込まれたすぐれた著作であり、島 秀雄記念優秀著作賞にふさわしい作品として選定しました。
国鉄の車両技術史で、ディーゼル機関車の発達史は、さまざまな紆余曲折があったために十分な検証がなされているとは言い難く、開発者や現場などそれぞれの視点で語られていました。著者はこの点に注目して、DF50形、DD20形、DE10形、ロータリー除雪機などの個々の形式を取り上げ、ライセンスや事業所ごとのニーズの観点から、その論点や疑問点に言及しています。タイトルに「論点、争点、疑問点」とあるように、論点を指摘するにとどめていますが、未解明であった戦後のディーゼル機関車史に取り組み、これまで曖昧にされていた点について問題提起した意欲を評価し、島 秀雄記念優秀著作賞に選定しました。
受賞者は、小田急電鉄の技術者、OBとして昭和30年代から鉄道雑誌に小田急電鉄に関する記事を執筆し続け、単行本としても『日本の私鉄・小田急』[諸河久と共著](保育社/1981)、『特殊鉄道とロープウエイ』(成山堂書店/1995)、『小田急ロマンスカー総覧』(大正出版/2005)などを手かげたベテランで、その蓄積は鉄道趣味者にとっての貴重な資料となっています。2014年においても、『小田急通勤型電車のあゆみ』[大沼一英との共著](JTBパブリッシング)、『小田急今昔物語』(戎光祥出版)を出版しており、島 秀雄記念優秀著作賞の特別部門にふさわしい業績として選定しました。