本書は、貨物輸送の根幹をなした「貨車車票」の歴史的変遷について本格的に調査研究した著作です。著者は鉄道の創業期に遡って、また内地の国有鉄道(およびその前身の私設鉄道を含む)にとどまらず、外地の鉄道にまで拡大し、一般貨物から甲種輸送までの全貌を明らかにしています。本書ではカラーによる復元図も添えられており、また車票の解説やコラム欄も理解を助けています。それぞれの時代の貨物輸送の特徴とそれを反映した多種多様な車票の制定の経緯が当時の規定とともに解説され、鉄道愛好者にとどまらず物流・鉄道関係者にとっても史料的価値が高い労作として島 秀雄記念優秀著作賞に選定しました。
本書は、上中下の全3巻で構成され、著者が実見した名古屋市電の廃止過程を中巻・下巻で解説し、それ以前を前史として上巻で紹介しています。特に中巻・下巻では、名古屋市電の廃止の経緯を路線別に時系列で並べ、それぞれの路線に関わった車両の解説を散りばめています。また、周辺の町並なども的確にとらえられ、鉄道史のみならず都市史の面からも得がたい資料になっています。世界のライトレールを国内に紹介する活動でも知られている著者が地元に密着したベテランとして名古屋市電を追い続け、随所に著者の持ち味が活かされた代表作として高く評価し、島 秀雄記念優秀著作賞にふさわしい作品として選定しました。
著者は、ミャンマーのほかインドネシアも含めて日本から譲渡された車両の状況について精力的に調査を行い、多くの関連するレポートを発表されています。調査が困難で、言葉の通じない現地で苦労を重ねながらまとめた一連のレポートは、国内で失われつつあるフィールド調査の重要性が再認識され、その意味でも高く評価されます。一方で、譲渡に伴いある程度予測されていた改造内容や稼働率の問題などに関しては、実態や理由が体系的に説明されるまでには至っておらず、今後これらの調査記録を活用し、問題意識に基づくより広い視野による研究発表が期待され、島 秀雄記念優秀著作賞にふさわしい作品として選定しました。
本書は、これまで多くの研究家が手がけながら不明確な点が多く残されていた西武鉄道の旧型国電について、国立公文書館で所蔵されている公文書や、先行研究に基づいて体系的に明らかにしています。内容が各論に偏りすぎている点や、他社との比較で西武鉄道が採った際だった違いの解明などが論じられていない点、これまで明らかになっていたことと著者が新規に発見したことの区別が曖昧になっている点などが惜しまれますが、先行研究では不確かであった車番や車体の形態に関する考察を深め、決定版とも言うべき車歴一覧表を作成したことは高く評価され、島 秀雄記念優秀著作賞に選定しました。
著者は、機芸出版社の定期刊行物である「鉄道模型趣味」誌で長期間にわたって活躍したベテランで、「陸蒸気からひかりまで」(機芸出版社/1965)、「私鉄電車プロファイル」(機芸出版社/1970)は車両側面のイラストの名著として知られています。近年も「吊掛賛歌」(ネコ・パブリッシング/2007)や「昭和鉄道見聞録」(ネコ・パブリッシング/2011)といった美しいカラーによる車両側面図を出版し続け、2013年にも「吊掛電車プロファイル」(ネコ・パブリッシング/2013)を出版されました。独特のタッチによる細密なイラストは味わい深いもので、特別部門として表彰するにふさわしい業績として選定しました。