本書の著者は、実際にEF13形電気機関車に乗務経験がある機関士で、かつ鉄道模型にも造詣が深く、ひとつひとつの機関車のディテールの違いを、愛着を持って観察していることがよくわかる著作です。また、本機の誕生や、本機の特徴である凸型から箱型への改造経緯、その活躍ぶりなどを、貴重な資料を踏まえて記述しています。著者のオリジナルの写真や図に加え、ベテランの方々の写真を多数収録しており、電気機関車ファンならずとも感心させられる充実した内容です。EF13形に身近に接してきた著者ならではの著作として高く評価し、選定しました。
本書のテーマである出石鉄道は、但馬地方の小私鉄として昭和4年に開業しながらも、戦争の激化の中で不急の路線として営業休止となり、復活することなく消えてしまった鉄道です。本書の著者は、これまでにもたびたび中小私鉄をテーマとした著作をまとめられていますが、公文書や営業報告書などの一次資料を駆使し、さらに現地での聞取り調査や踏査、空撮による廃線跡の調査など、その集大成とも言うべき労作です。また、車両解説に偏ることなく、歴史や路線、営業などについてバランス良く調査された作品としても高く評価され、選定しました。
本書は、地元で生まれ育った著者の西鉄に対する深い思い入れが感じられ、一人で長年にわたって地道に撮り続けた写真集としても、高い水準にあります。特に、花電車の追跡撮影や定点撮影、廃止後の撮影などは地元ファンならではのもので、写真に対する著者のこだわりぶりも感じられ、そのレベルも高く評価されました。こうした優れた著作が、地元のファンと地元の地方出版社のコラボレーションによって出版されたことを高く評価し、受賞作にふさわしい作品として、選定しました。
この作品は、駅の構内などに設置される緩衝式車止めという、従来あまり注目されなかった鉄道施設に注目し、構造やメーカー別に分類をした上で実際に各駅等に設置されている現物を「足で稼いで」観察した成果です。その新規性、独自性はユニークで、趣味活動の楽しさを伝えて余りある成果をもたらすとともに、その構造、メーカー、形態などを独自の視点で分類し、資料的価値も高く、鉄道趣味の裾野を拡げ、新たな可能性を開いた著作として高く評価され、賞にふさわしい作品として、選定しました。
この作品は、種々の掲示標のうち、特に行先標に焦点をあてて、その変遷をまとめたものです。また、該当する規定を具体的に例示し、それにより作成された実物の写真とを対比させることによってわかりやすく解説され、資料的な価値も高められています。そのアプローチは、極めて趣味的ですが、幅広い内容をバランスも良く体系的にまとめており、新規性や独自性の点でも優れた著作です。単に制度の変遷を表面的にたどるだけでなく、琺瑯加工業の盛衰や、国語・国字政策の転換、正書法など表記の傾向・流行など、産業や社会、文化の面にもスポットをあて、考察を深めているユニークな作品として、選定しました。
明治末期に、私鉄ブームによって多くの私鉄が設立されましたが、その何社かは100周年を迎え、これを記念した社史などが出版されました。京阪電気鉄道でも、100周年を迎えた同社の記念事業の一環として、『京阪百年のあゆみ』(京阪電気鉄道・2011)を発行しましたが、これとは別に一般向けに『京阪電車 車両の100年』(京阪電気鉄道+ネコ・パブリッシング・2010)を企画・出版し、「京阪ロマンスカー史」(エリエイ『レイルNo.73・74』・2010)の出版企画に協力されました。これらの出版物を積極的に手がけた企画を高く評価し、特別部門にふさわしい対象として、選定しました。