本書は、日本の路面電車(本書では特に「市内電車」と表現しています)について、公文書を軸として法制度、経営、運輸、各社の概要、車両などを総合的にまとめたものです。近年では、環境への負荷が少なく高齢者にも優しい交通機関として、路面電車がふたたび脚光を集めつつありますが、こうした路面電車の歴史的過程を知るための基礎資料として、1895(明治28)年から1945(昭和20)年の50年間に開業した日本の全軌道の解明に挑んだのが本書です。本書は、今後の路面電車の研究に不可欠なデータブックとしての性格もあり、第一級の基礎資料として今後の鉄道の研究にも大きく貢献することが期待されます。著者は、すでに日本の私鉄を体系的にまとめた著書をいくつか発表されていますが、本書は、路面電車の創世記から終戦までの時代を要領良く、かつ網羅的にまとめた著作として高く評価し、選定しました。
本書は、著者が今から40年ほど前に雑誌『鉄道ファン』(交友社)に連載し、さらに2004(平成16)年から翌年にかけて、再び『鉄道ファン』誌に決定版として掲載した連載をベースとして、単行本に再構成したものです。蒸気機関車の形態を大きく左右するデフ(除煙板)にこだわり続け、趣味者の視点で40年間の歳月をかけてまとめた本書は、まさに鉄道趣味の原点を示したものと言えます。デフは蒸気機関車の付属的な装備に過ぎませんが、客観事実と著者の考察・推測を明確に区分して記述し、著者の永きにわたる調査・研究の成果が集大成されています。デフの分類についても、実物の調査をベースとして資料の引用により的確な考察が加えられており、鉄道研究における指導的な役割を果たす作品として、選定しました。
著者は、九州在住の熱心な鉄道ファンとして、これまで九州の鉄道に関する多くの著書や、雑誌記事などを発表されています。九州の北部における上質な鉄道の情報が、戦後の早い時期から発信されているのは、数名のベテランファンの力によるところが大きいのですが、特に著者はそのリーダー格として活動を続け、今も活躍を続けています。この作品は、個人の写真集ですが、取り上げられた鉄道は国鉄、私鉄を問わず広範囲にわたり、また、昭和20年代前半の貴重な写真なども含まれています。写真の質も高く、挿入された「小倉駅の変遷と足立停車場」などの歴史的な考察文も優れています。惜しむべきは、写真の印刷の質に難点があるのが残念ですが、本書は単なる写真集ではなく、著者の永年の趣味活動の成果が反映された作品として、選定しました。
これまで、鉄道関係者の体験記については、いくつかの書籍が発行されていますが、その大半は機関士や運転士、車掌あるいは駅員といった業務に関するもので、食堂車の乗務員についてはほとんど記録がありませんでした。著者は、1969(昭和44)年以来、食堂車の乗務員として現場の第一線で活躍を続けましたが、当時の石炭レンジ時代の調理法にはじまり、配膳方法や営業準備の方法、さらにはトラブルが生じたときの対処法など、大小の様々なエピソードを交えながら紹介しており、歴史の証言としても得難い記録となっています。また、鉄道趣味者ならではの視点で、今ではほとんど姿を消した食堂車の、全盛期における業務実態を紹介しており、資料としても貴重であるばかりでなく、「物語」として、また読み物としても楽しめる作品として選定しました。
この作品は、JR東日本とJR西日本を結ぶ連絡鉄道としての役割を果たしている北越急行について、その乗入用の特急形電車(681・683系)を中心に紹介した著作です。著者は、その当事者として、特に車両の乗入れにあたっての苦労話など、エピソードを交えながらファン向けに紹介しています。異なる鉄道会社に乗入れる車両を設計するために、どのようなことを考慮し、どのような工夫が必要で、どのようなプロセスでこれを実現したのか、鉄道ファンが知りたいと思う内容が、貴重な資料とともに語られています。また、写真の質や選定も申し分なく、行き届いた文章ととともに、 完成度の高い作品として選定しました。
このシリーズは、日本全国と旧外地の鉄道路線を、12分冊で網羅的に紹介するとともに、正縮尺の鉄道地図に現在の路線と廃線を収録し、開業年などの歴史情報を盛り込んだものです。これによって、鉄道の平面的な広がりと、その時間的経過を重ね合わせて理解することが可能となりました。こうした企画は、多くの執筆者や協力者によってなされるため、細かいデータについては分冊によって精粗がありますが、監修者によってある一定の水準を確保しており、これをシリーズとしてまとめ、さらにファンばかりでなく広く一般の読者に向けて出版された努力は高く評価されます。本シリーズの出版により、日本の鉄道がより具体的に把握できるようになっただけではなく、地形や地勢などの地理的要因からなぜそのルートを選択したのかも容易に理解することが可能となり、特別部門にふさわしい企画として選定しました。