鉄道友の会(会長・須田 寬、会員約3,000名)は、島 秀雄記念優秀著作賞選考委員会(選考委員長・大賀 寿郎)による選考のもと、2020年島 秀雄記念優秀著作賞として、下記の単行本部門3件、定期刊行物部門1件、特別部門2件の合計6件を選定することに決定いたしました。
単行本部門 (3件) | 清水武、田中義人「名古屋鉄道車両史」アルファベータブックス(2019) |
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青田孝「鉄道を支える匠の技」交通新聞社(2019) | |
在羽テヌヒト(田嶋玲)「黎明期の貨車移動機」交現社在羽製作所(2019) | |
定期刊行物部門 (1件) | 高田圭「JR奈良線の歴史を探る」(エリエイ『レイル』No.109掲載) |
特別部門 (2件) | 「ニチユ機関車図鑑」(イカロス出版)ほか一連の著作に対して(岡本憲之) |
「むかし、秋保まで鉄道が走ってた。」ほかの一連の企画に対して(東北福祉大学・鉄道交流ステーション) |
選定対象の解説、選定理由は下記のとおりです。
単行本部門 清水武、田中義人「名古屋鉄道車両史」アルファベータブックス(2019)
本書はさまざまな歴史的背景を持ち、合併した各社の車両を統合しつつ発展した名古屋鉄道(名鉄)の車両群について、網羅的かつ体系的に解説した労作です。大判の採用による見やすい誌面レイアウトにより、掲載資料の価値や魅力が十分に活かされていることも評価できます。著者はいずれも名鉄の元社員で、趣味者としての視点や立場を大切にし、貴重な資料や写真を活用して完成度の高い内容に仕上げられています。このように内外の情報に熟知した「趣味者」がその経験・知識を活かし、趣味者に限らず一般読者にも十分通用する内容の書籍として出版したことは、今後出版される同種の出版物の模範を示す著書として、島秀雄記念優秀著作賞に選定しました。
単行本部門 青田孝「鉄道を支える匠の技」交通新聞社(2019)
本書は、鉄道業務を支えるさまざまな鉄道関連企業の現場を訪ね、「ものづくり」の角度から鉄道業の全体を検証している著作です。通常、メーカーは鉄道事業者の規格に適応するよう受注生産しています。受注数量がそれほど多くなく、規格も事業者によって細かく異なりますので、メーカーは大量生産方式ではなく「技」で対応してきました。そして、近年ではこの「技」が国際的に認められつつあります。今後の日本が世界のなかで果敢に生き残るためのキーワードのひとつとして「ものづくり」が叫ばれて久しいですが、本書は「技」で勝負する鉄道関連企業へのきめ細やかな取材とわかりやすい解説を交えた格好の図書であり、島秀雄記念優秀著作賞に選定しました。
単行本部門 在羽テヌヒト(田嶋玲)「黎明期の貨車移動機」交現社在羽製作所(2019)
本書は、一般に機械扱いとされ、「車籍」を有しないことから多くの鉄道趣味者の関心の対象外とされてきた「貨車移動機」について、戦前から戦後初期にかけての日本における発達過程を研究した書籍です。国鉄の貨車移動機だけでなく、その先駆的事例である「諸星式ウヰンチ車」のほか、移動機によらない貨車入換作業の動力化事例についても触れられています。また、業界誌のほか市町村史や公文書などを細かく参照しており、著者の高い史資料調査能力が伺われるとともに、図表や写真が適切に織込まれるなど見やすさの工夫もなされています。以上を踏まえ、先行研究が少ない分野について取り組んだ好著として、本書を島秀雄記念優秀著作賞に選定しました。
定期刊行物部門 高田圭「JR奈良線の歴史を探る」(エリエイ『レイル』No.109掲載)
本著作は、JR奈良線の沿線に残る歴史的構造物を現地調査し、地元の歴史館で保存されている古文書などを活用しながら、JR奈良線の歴史に迫っています。その範囲は、私設鉄道の奈良鉄道として発足した当時から、現在に及んでおり、JR奈良線の全体像を俯瞰できる著作としてまとめられています。特に、これまで取り上げられる機会の少なかった施設の変遷についても多角的に研究・検証が行われており、興味深い内容にまとまっています。同線に詳しくない読者には全体像がつかみにくく、多方面の話題を取り上げているため全体構成もややまとまりに欠けますが、路線史研究のひとつの成果であり、本著作を島秀雄記念優秀著作賞として選定いたしました。
特別部門 「ニチユ機関車図鑑」(イカロス出版)ほか一連の著作に対して(岡本憲之)
受賞者は、軽便鉄道や鉱山鉄道、森林鉄道のほか遊覧鉄道などにも関心を持ち、『全国鉱山鉄道』(JTBパブリッシング・2001)、『軽便鉄道時代』(同・2010)をはじめ、こうした比較的マイナーな分野に関する資料性の高い著作を過去に多数発表しています。その中でも近年出版された『加藤製作所機関車図鑑』(同・2014)、『ニチユ機関車図鑑』(イカロス出版・2017)は、未知の領域ともいえる産業用機関車の分野にメーカー側の協力を得てアプローチした点が特筆され、メーカー側の提供によるカタログや納入台帳などの付属資料も充実し、完成度の高い内容になっています。以上より、これらの一連の著作を島秀雄記念優秀著作賞の特別部門にふさわしい業績として選定しました。
特別部門 「むかし、秋保まで鉄道が走ってた。」ほかの一連の企画に対して(東北福祉大学・鉄道交流ステーション)
受賞者の東北福祉大学・鉄道交流ステーションは、2007年、仙山線に東北福祉大前駅が開業したことを機会に設けられた同大の付属施設で、学芸員を配置し、地元の鉄道愛好者団体の協力を得るなどして、これまで38回の企画展を開催しています。出版活動も企画展の内容から、「鉄道交流ステーションブックレット」として刊行し、「むかし、秋保まで鉄道が走ってた。」はその4冊目にあたります。本書は地元の利を生かした丹念な資料収集に加え、関係者へのインタビューも交え、写真もバランスよく収録されており、資料としても、また読み物としても完成度の高い内容です。既刊の「鉄道交流ステーションブックレット」や企画展と合わせてその企画を高く評価し、島秀雄記念優秀著作賞の特別賞に選定しました。
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