東日本旅客鉄道E7系と西日本旅客鉄道W7系は、2015年3月に金沢まで開業した北陸新幹線に投入された新型新幹線車両です。北陸新幹線には山岳を走行する故の30‰の連続急勾配区間があり、また、50Hzと60Hzの電源周波数の切り換えが途中に3カ所あります。さらに、冬期の降雪に対しては、上越新幹線などのように地上側設備による完全消雪ではなく、車両側での自力排雪走行が求められる区間もあります。E7・W7系は以上のような厳しい線区条件の下でも「高い安全性・信頼性」を達成するのみならず、「更なるお客さまサービスの向上」をも目指して、E2系やE5系などをベースに整備新幹線規格で設計されました。東日本旅客鉄道の車両がE7系、西日本旅客鉄道の車両がW7系と呼称されていますが、ともに同一設計の車両です。
車両の編成は12両(10M2T)固定編成で、設計最高運転速度は275km/hですが、高崎−金沢間の整備新幹線規格の区間は260km/hで運転されています。車体はアルミ製で、全幅がE5系より30mm拡幅され車内の居住性が改善されました。1号車から12号車のうち、金沢方先頭の12号車がグランクラス、11号車がグリーン車、その他が普通車で、編成での定員は合計で934名です。主変圧器・主変換装置その他の高圧交流機器、および補助電源装置は50/60Hz両用で、主電動機は連続定格出力が300kWの誘導電動機です。1ユニット(2両分)の主回路機器カットの条件でも30‰での勾配起動可能です。また30‰勾配区間の降坂時においても、260km/hから非常制動を可能とするブレーキ性能を有しています。また、地震発生時には停電を検知することにより、高速域で通常の非常ブレーキよりも強い制動力のブレーキを作用させて停止距離を短縮する停電検知ブレーキを導入するとともに、脱線防止装置として車両側にL形の逸脱防止ガイドが搭載されるなど地震対策も強化されています。なお、高速での自力排雪走行のため、先頭車のスノープラウに加え、両先頭台車に強化型台車排障装置を取り付けています。
車両内外のデザインは日本の伝統文化と未来をつなぐ意味から「“和”の未来」をコンセプトとしています。エクステリアデザインは、車体前面から上部を「空色」、車体は「アイボリーホワイト」で車体中央に「銅色(カッパー)」及び「空色」の帯をそれぞれ配して鮮やかに彩られています。インテリアデザインは各クラス共通に日本的な「和」をイメージさせる内装がほどこされ、それぞれのグレードに応じて落ち着いた中にも華やかな空間が演出されています。
以上のように、E7・W7系は厳しい線区条件の下でも安全性と信頼性を確保しつつ、「和の未来」をコンセプトしたデザインを積極的に採用するなど、北陸への新しい大動脈となった北陸新幹線を強くアピールしていることなどから、ブルーリボン賞に選定しました。
東日本旅客鉄道EV-E301系は大容量のリチウムイオン電池(以下、「蓄電池」と記す)を駆動用電源として搭載し、非電化区間でも電気駆動が可能な車両です。直流1500Vの電化区間では架線からの電力での走行と蓄電池の充電を同時に行うことができます。この蓄電池は、電化区間走行中の充電の他、非電化区間では減速時の回生電力と折り返し駅に設置された充電設備からの供給電力で充電されます。非電化区間では充電された蓄電池のエネルギーを用いて走行します。
EV-E301系はいずれも制御電動車であるEV-E300形とEV-E301形の2両による固定編成で構成されます。容量100kVAの補助電源装置と電動空気圧縮機はEV-E300形に集約されています。ステンレス製20m級の車体に片側3つの両開きドアを装備しています。車両の床面高さは1130mmとして、電化区間・非電化区間で異なるホーム高さの両方で段差が少なくなるよう配慮されています。座席配置はオールロングシートでラッシュ時間帯の乗降時間短縮が図られています。パンタグラフはEV-E301形に2台装備され、折り返し駅停車中の急速充電に対応できるよう、すり板部を強化したタイプが用いられています。起動加速度は2.0km/h/s、減速度は常用最大で3.6km/h/s、最高速度は100km/hです。
主制御器として、DC/DCコンバータとVVVFインバータで構成される電力変換装置を1編成あたり1台装備しています。定格630Vの蓄電池を搭載し、その容量は1編成で190kWhとしています。DC/DCコンバータは架線電圧を蓄電池電圧に降圧する役割を持ち、VVVFインバータは蓄電池電圧を直流入力電圧として1時間定格95kWの誘導電動機4台を駆動します。
EV-E301系は平成26年3月より、東北本線の宇都宮から宝積寺を経て、烏山線の終点烏山までの区間で営業運転が行われています。宇都宮−宝積寺間の約11kmが電化区間であり、烏山線の非電化区間約20kmでは蓄電池からの電力で走行します。烏山線内の最高運転速度は他の気動車列車に合わせて65km/hとしています。
ディーゼルエンジンを搭載した気動車は電気駆動の車両に比べると、振動、騒音が大きく、さらに排気ガスを生じるなどの課題があります。これらに対して,EV-E301系では,高性能二次電池であるリチウムイオン電池を駆動用電源とした電気駆動を採用したことにより、非電化路線の旅客サービスと車両の環境適合性両方の向上が図られました。このように、架線と大容量蓄電池のハイブリッド方式により、非電化路線鉄道の新しい動力方式を具現化した点で、EV-E301系は極めて意義の大きな車両であることから、ローレル賞に選定いたしました。
箱根登山鉄道3000形は、繁忙期における輸送力増強を目的として製造された25年ぶりの新形式車両です。箱根登山鉄道は、箱根湯本−強羅間の最急勾配80‰、最小曲線半径30m、3カ所のスイッチバックなど、我が国でも本格的な登山鉄道です。3000形の車体長は14m級の小型で、両端に運転台を設けた単車構造として、単車運転もしくは3000形同士の2両編成、または2000形2両編成との連結による3両編成を可能としています。
車体は、車両の全方向から箱根の四季、自然景観を眺められるよう、運転台は大型の窓ガラスとし、乗務員室後方の展望窓と側引戸にはそれぞれ床面から天井近くまでの窓ガラスを採用しています。車体材質はステンレス鋼としていますが全面塗装とし、バーミリオンはこねと名付けた赤系色を基本に、窓下のシルバー、窓回りをダークグレーとして従来車より大きな開口部を強調しています。
車内の両先頭部は展望窓から外の景観が楽しめる展望ゾーンと、中央部は4人掛けクロスシートとして車窓や旅を楽しむクロスシートゾーンの二つとしています。出入口付近の座席は折り畳み式とし、最繁忙期には立席定員を増やすことが可能です。クロスシート部の窓は下降式窓となっており、自然の空気を取り込むことが可能です。客室内は電球色LEDによる間接照明とし、座席窓台に強化木、壁に木目調の化粧板を用い、座席シートは赤系統の暖色系とすることで、車内を暖かく、落ち着いた雰囲気を持たせています。
限られた床下スペースのためVVVFインバータ装置とSIV装置を一体箱に集約しています。営業運転区間の箱根湯本−強羅間の架線電圧DC750Vと回送運転区間の入生田−箱根湯本間のDC1500Vに対応した複電圧システムとなっており、主回路を切り替えることなく走行が可能となっています。既存車両に合わせた3段階の抑速制御機能と、3000形のみの編成の場合は時速5km/h以上で上り勾配と急曲線を一定速度で運転できる定速制御が可能です。ブレーキは、電気ブレーキ(回生/発電ブレンディング)、電気指令式空気ブレーキ、保安ブレーキ(レール圧着ブレーキ)、手ブレーキの4種類を搭載しています。急勾配区間において万が一回生ブレーキが失効しても、発電ブレーキによる抑速ブレーキが可能です。従来車同様、急曲線通過時に使用する散水装置を先頭部の床下に搭載しています。
斬新なデザインと最新の技術により、観光地・箱根のイメージアップの一助となった点で3000形は極めて意義の大きな車両であることから、ローレル賞に選定いたしました。