2008年ブルーリボン賞は、有効投票数2512票のうち最高得票の629票を獲得した東海旅客鉄道・西日本旅客鉄道 N700系を選定することに決定しました。
N700系は、東海道・山陽新幹線用として航空機などとの競争に対応すべく、曲線の多い東海道区間とトンネルが多く最高速度の高い山陽区間の双方で、最高の性能を発揮させることを意図して、両社において共同開発された新幹線電車です。新幹線では初となる車体傾斜装置を採用し、東海道区間において乗り心地を損なうことなく曲線通過速度を高めています。また、先頭形状は「遺伝的アルゴリズム」を用いた設計手法により、流体力学的に最適な形状としたエアロ・ダブルウィング形とし、連結面を覆う全周ほろの採用とともに、走行抵抗と騒音の低減を図っています。これにより、山陽新幹線区間での最高速度300km/h運転に対応可能としています。さらに、編成全体にわたる出力増強と動力配置の最適化により、加速力の向上と、回生ブレーキの効果向上による省エネを同時に実現し、セミアクティブ制振制御装置により、乗り心地向上も実現しています。ATCや制御伝送システムのデジタル化といった列車や車両の制御や保安のための技術の充実も活かし、日本が誇る鉄道システム「新幹線」の新しい時代に高い次元で調和する車両として、今までにない機能を実現しています。
旅客サービスとしては、グリーン車へのリクライニング操作と連動して座面が傾斜するシンクロナイズド・コンフォートシートの導入や、客室内電源コンセントの大幅な増設といった近年の生活やビジネススタイルの変化に合わせた装備の充実などの意欲的な試みが、乗り心地や静粛性の向上に惜しみなく投入された技術と相まって、格段の快適性が得られています。
このN700系の投入により、品川、新横浜など大都市圏での停車駅増加を実現しながら、「のぞみ」号が持つ速達性の維持・向上が可能となっただけでなく、さらなる省エネ化も達成され、鉄道輸送の優位性を示すことになりました。このような東海道・山陽新幹線用車両として歴代最強となる存在感と快適性が鉄道友の会の多くの会員の支持を集めたことから、ブルーリボン賞に選定しました。
東日本旅客鉄道 E721系・仙台空港鉄道 SAT721系は、仙台空港線開業を機に、仙台地区の都市圏輸送用として同時に開発された交流電車です。基本設計は両系列で共通ですが、一般仕様のE721系0番代に対し、同500番代とSAT721系は大型荷物置場を設けて空港利用客の便を図っています。
仙台地区の多くの駅は、首都圏などの電車線区よりもホームの高さが低くなっており(線路からの高さ920mm)、従来の電車では、出入り口にステップを設けていました。しかし、ステップの存在は乗降時に不便であり、バリアフリーの観点から解決が必要な課題でした。ホーム高さのかさ上げには費用的・技術的な制約が大きく、逆に車両側で対応すると、ホームが高い駅での使用が不可能になるため、長い間、抜本的な解決は困難であるとされていました。
それに対して、この車両は、あえて他線区での使用を考慮に入れず、首都圏などの最新車両と比べて遜色のないように、床面高さを大幅に下げ、ホームとの間の段差低減をめざして登場しました。具体的には、直径810mmという一回り小型の車輪を採用し、さらに台車周りの骨組み形状や機器配置の工夫や、交流電車に不可欠な主変圧器や制御装置など電気機器の小型化といった手堅い手法を採ることにより、床面高さ950mmの低床電車を実現しました。いっぽうで、運転台部分は従来の701系電車と同じ高さとし、相互の連結運転を可能とすることにより、使い勝手の向上も図っています。この車両は仙台地区の新しい標準車両として、集中的に投入されており、地域輸送のイメージを一変させる効果ももたらしました。
限られた経営資源の中で、ホームのかさ上げといった大きな投資が容易ではない線区では、このような低床車両の投入による利用者サービスの改善効果は大きく、これを特殊な技術を用いることなく実現できたことによって、潜在的なニーズに応えることが可能になりました。自動車交通が圧倒的に有利な地方都市圏において、鉄道が鉄道であり続けるための利用者本位の思想が産んだ発想の転換が、首都圏などと遜色ない利用者サービスの提供を可能にしたといえ、このような車両を活用する積極的な施策により、鉄道輸送における地域格差の低減が期待されます。
以上のように、「前例にとらわれない発想転換を伴う地域利用者本位の設計コンセプト」、「様々な工夫と機器の小型化による低床電車の実現」、「首都圏レベルの輸送サービスの地域展開」といった特徴が、選考委員会において評価されたことから、ローレル賞に選定しました。
東日本旅客鉄道キハE200形は、営業用車両としては世界初のハイブリッド気動車で、現在は、勾配路線として知られる小海線で使用されています。この車両は、ディーゼルエンジンで発電機を駆動し、バッテリーからの電力のアシストにより、VVVFインバータ制御の誘導電動機を駆動させる「シリーズ式ディーゼルハイブリッドシステム」を採用しています。また、回生ブレーキにより発生した電力はバッテリーに充電され、発進時に放電することにより加速を手助けする仕組みとしています。さらに、バッテリー電力で発進した後、ある程度の速度以上になってからエンジンを起動させ、駅停車時にはエンジンを停止し、サービス機器などに必要な電力はバッテリーから供給するため、気動車でしばしば問題になる駅停車中や発進時のエンジン騒音から解放され、加速時の黒煙発生も抑制されました。
このように、キハE200形は、走行状態や蓄電状況に応じて、きめ細かくエンジンとバッテリーの負担割合を変化させることにより、燃費向上・排ガス低減・騒音低減を実現しました。現在使用されている小海線のように、勾配が多く路線条件の厳しい線区においても、ハイブリッドシステムによる効果は十分発揮されており、今後の展開に期待が持たれます。
電化区間では、ブレーキ時に発生する電力を架線に戻す回生ブレーキの有効活用もあって、近年、省エネルギー化が急速に進んでいますが、この車両が登場した結果、バッテリーを搭載したディーゼルハイブリットシステムを用いることにより、非電化区間でも同様の効果による省エネルギー化が期待できるようになりました。また、機械部分が多かった従来の気動車に対して、機器類は電車用と共通化を図ることにより、メンテナンス性の向上もめざしています。さらに、ハイブリッドシステムのディーゼル発電部分を将来、燃料電池など新しいエネルギー源に置き換えることにより、さらなる展開も期待できます。したがって、将来の非電化区間の鉄道のあり方を一変させる可能性を秘めた車両と位置づけられます。
以上のように、「環境世紀にふさわしい最新技術を用いたハイブリッド気動車の実現」という特徴が、選考委員会において評価されたことから、ローレル賞に選定しました。
鉄道名 | 形式・系列 | 備考 | |
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1. | 北海道旅客鉄道 | 789形1000番台 | - |
2. | 北海道旅客鉄道 | キハ261系1000番台 | - |
3. | 函館市交通局 | 9600形 | - |
4. | 東日本旅客鉄道 仙台空港鉄道 | E721系 SAT721系 | - |
5. | 東日本旅客鉄道 | E655系 | 特別車両(非営業車)は対象外 |
6. | 東日本旅客鉄道 | キハE130系 | - |
7. | 東日本旅客鉄道 | キハE200形 | - |
8. | 埼玉新都市交通 | 2000系 | - |
9. | 小田急電鉄 | 4000形 | - |
10. | 東京急行電鉄 | 7000系 | - |
11. | 京浜急行電鉄 | 新1000形6次車 | - |
12. | 東京都交通局 | 9000形 | - |
13. | 東海旅客鉄道 西日本旅客鉄道 | N700系 | - |
14. | 阪神電気鉄道 | 1000系 | - |
15. | 大阪府都市開発 | 7020系 | - |
16. | 松浦鉄道 | MR-600形 | - |
17. | 南阿蘇鉄道 | DB16形 トラ20000形 | - |
18. | 鹿児島市交通局 | 7000形 | - |