選定対象の解説、選定理由は下記のとおりです。
単行本部門 藤原義弘『三池炭鉱専用鉄道の略歴と機関車』みらい広告出版(2020)
128年間にわたって大牟田・荒尾の三井三池炭鉱を支え続けてきた三池炭鉱専用鉄道は、炭鉱の閉山後も三井化学専用鉄道として貨物輸送を行っていましたが、2020(令和2)年に全廃されました。本書は、廃止発表の直前に地元で行われた「わがまち三池の炭鉱電車を語る」という講演会の資料に基づき、廃止後に小冊子としてまとめられた記録です。本書では、「炭鉱電車アルバム」として過去の情景を、「三池鉄道地図」「三池鉄道略年表」として三池鉄道の概要を紹介した後、蒸気機関車や電車(電気機関車)などを紹介しています。明治期からの貴重な写真が掲載されていて資料的価値が高く、見やすい構成で地方らしさが随所に感じられる出版物として、島秀雄記念優秀著作賞に選定しました。
単行本部門 西脇 恵、泉 竜太郎『よみがえる記憶・北陸の鉄路』中日新聞社(2020)
本書は、1960(昭和35)年から24年間にわたって石川、福井、富山の北陸3県で撮影した1万カットを超えるモノクロ鉄道写真の中から、厳選した500枚の写真を収録しています。地元在住の強みを生かして撮影され続けた鉄道風景は、隆盛を極めた北陸の鉄道が、徐々に路線を減らしていく様子が克明に記録されています。掲載された写真は、車両のみならず鉄道のある情景を記録しており、当時の街並みや暮らしぶりをうかがい知ることができ、単なる鉄道写真集ではなく、鉄道とともに暮らす人々への記録にもなっています。発売後わずか4カ月で6刷に達したことは、鉄道趣味者のみならず多くの人々に共感を与えたことを示しており、島秀雄記念優秀著作賞に選定しました。
定期刊行物部門 小野田 滋、加藤幸弘、遠藤晃一、大菅 直「京都市交通局2号電車について」(エリエイ『レイル』No.116掲載)
日本で最初に営業を開始した電車として知られる京都電気鉄道(後の京都市交通局狭軌線)の車両について、その買収までの歴史はこれまでほとんど解明されていませんでした。昨年、平安神宮に保存されている京都市交通局2号電車が国重要文化財に指定されましたが、鉄道友の会では文化庁に協力して京都市が所蔵する公文書を調査・研究する機会がありました。この著作はその際の研究グループのメンバーが、成果の一部を一般向けに紹介した著作です。京都市が保存する図面や資料などを中心に調査・整理して、膨大かつ緻密な表を作成し、わかりやすい写真で丁寧に解説されています。豊富な資料を駆使して京都電気鉄道の車両について解明し、島秀雄記念優秀著作賞にふさわしい記事として選定しました。
特別部門 佐藤良介『京急230形』(ネコ・パブリッシング)ほか一連の著作に対して
受賞者は、古くからの京浜急行電鉄ファンとして知られ、これまでにも京浜急行電鉄に関する雑誌記事や単行本を多数執筆してきたベテランです。今回の『京急230形』(ネコ・パブリッシング(2020))は、その集大成にふさわしい内容で、かつて京浜急行を代表する電車として親しまれた230形に的を絞って、その誕生から終焉、そして京浜急行電鉄本社における展示に至る足跡をたどっています。この著書は、「RM LIBRARY」から3分冊で出版され、「上巻」では登場から戦後復興期までが紹介され、「中巻」では京浜急行電鉄の発足後における小型車の活躍を紹介し、「下巻」ではその終焉に至る経緯を解説しています。本書は京浜急行一筋に情熱を傾けた著者の代表作にふさわしい著作であることを評価し、これまでの一連の著作を含めて島秀雄記念優秀著作賞特別部門にふさわしい業績として選定しました。
特別部門 椎橋俊之『鉄の馬と兵ども』(イカロス出版)ほか一連の著作に対して
受賞者は、これまでにも『「SL甲組」の肖像』シリーズ(全8巻/ネコ・パブリッシング刊/2007~2014)を刊行しており、のべ500人以上のインタビューによって蒸気機関車の運転に携わった人々の生の証言記録を丹念にまとめた実績があります。著者が一貫して取り上げているのは、現場で蒸気機関車の運行を支え続けた乗務員の生の声であり、当時の写真や資料と共に紹介されることによって、後世に対する貴重な伝承記録となっています。本書は、その延長線上にまとめられたインタビュー記録で、雑誌「蒸気機関車EX」の連載を1冊にまとめたものです。蒸気機関車の運転に直接携わった世代はすでに少なくなってしまいましたが、全国を訪ね歩いて証言をまとめた努力は、著者の力量によるところが大きく、過去の著作を含めて島秀雄記念優秀著作賞特別部門にふさわしい業績として選定しました。