単行本部門 中村尚史「海をわたる機関車」吉川弘文館（2016）
本書は、イギリス、アメリカ、ドイツから日本へ輸入された蒸気機関車について、当時の国際情勢や国際競争、日本への進出、日本の鉄道技術の発達と機関車輸入、機関車の国産化の試行、国産化の確立などの視点で、鉄道開業時から大正時代あたりまでの経緯を、豊富な資料に基づいて解明した著作です。特に、輸入にあたって海外のメーカーと日本の鉄道会社の間に入った商社の存在や、技術者の存在にも幅広く目を向けており、従来の形式番号や所属の変遷が主体であった蒸気機関車史とは異なった視点による著作として、高く評価されます。蒸気機関車史に新たな解釈を加えた著作として、島秀雄記念優秀著作賞に選定しました。
単行本部門 大賀寿郎「路面電車発展史」戎光祥出版（2016）
本書は、世界における路面電車の発展史を概観した著作で、日本にも導入されたＰＣＣカーや、東ヨーロッパ圏で普及したタトラカーの誕生について、多くの文献をもとに技術的な視点で考察されています。また、著者自身の撮影による海外の路面電車の写真が豊富に紹介され、史料的な価値も高い著作となっています。電車が営業運転を始めた1880年代からはじまり、1990年代の日本の低床式電車の発展に至るまで、当時の海外の技術や、メーカーの動向とも関連づけて解説され、新たな視点による著作としても高く評価できます。長年にわたる研究成果が反映された著作として、島秀雄記念優秀著作賞に選定しました。
定期刊行物部門 フリーランス・プロダクツ「ハイブリッド大全」（交友社『鉄道ファン』2016年１月号掲載）
この著作は、鉄道分野でも急速に普及しつつあるハイブリッドシステム全般について、現時点での状況を技術的な視点からまとめた著作です。「ハイブリッド」の概念や定義についてはまだ十分に確立されていませんが、本著ではその基となった自動車分野での発達から、鉄道車両分野への移転、過去の鉄道車両における要素技術（蓄電池や電力回生など）の発達などを含めて、その発達史をわかりやすく解説しています。専門家以外にはわかりにくい駆動メカニズムの違いなどもイラストで的確に表現されており、最新技術をわかりやすく解説した著作として島秀雄記念優秀著作賞に選定しました。
特別部門 戦後日本の鉄道カラー写真に関する一連の著作に対して（ジェイ・ウォーリー・ヒギンズ）
受賞者は、駐留アメリカ軍軍属として来日し、戦後日本の鉄道情景を撮り続けましたが、その成果を「昭和30年代鉄道原風景」（ＪＴＢパブリッシング・2006）、「昭和30年代乗物のある風景」（同・2007）などの著作として出版し、昨年はNPO法人名古屋レール・アーカイブスに所蔵されている写真を基に「東京オリンピック開催を前にした首都圏の鉄道情景」が「鉄道ファン」誌に連載されました。これらの写真は、コダクロームを用いたカラー写真で撮影された点に特徴があり、当時の鉄道の姿をリアルに甦らせています。数々の出版物を通じて貴重な写真を公開した功績を高く評価し、島秀雄記念優秀著作賞特別部門に選定しました。
特別部門 「昭和天皇御召列車全記録」の編集に対して（新潮社日本鉄道旅行地図帳編集部）
本書は、「昭和天皇実録」を典拠として昭和天皇が利用した御召列車の運転記録を再整理した資料で、皇孫時代の1901（明治34）年から、崩御直前の1988（昭和63）年までが集大成されています。単なるデータ集では終わらせず、エピソード､写真、図版なども豊富に掲載されていることや、全カラー印刷として見やすくした誌面構成など、読物としても読者を飽きさせないよう心がけた編集者の工夫が随所に見られます。本書は御召列車の運転記録を通じて昭和天皇が全国各地に残された足跡を浮き彫りにしており、貴重な記録を集大成した編集部の功績を高く評価して、島秀雄記念優秀著作賞特別部門に選定しました。
特別部門 「置戸森林鉄道」の出版に対して（橋爪実）
本書は、北海道北見営林局管内の置戸森林鉄道に関する記録を丹念に拾い、これまでほとんど明らかにされていなかった道内最古に属する森林鉄道の実態、車両、地域住民との関わりを明らかにした労作です。北海道における林業の形成過程や林業と森林軌道のつながり方も良く分かり、巻末の資料も充実して書籍としての完成度も高い著作です。著者は故人となられましたが、鉄道趣味に対する御遺族の理解のもとに自費出版されたことは、貴重な鉄道史料が散逸する中できわめて意義あることで、貴重な史料をまとめられた功績と、その遺志を継いで自費出版された功績を讃えて、島秀雄記念優秀著作賞特別部門に選定しました。
