単行本部門 髙木 宏之「国鉄蒸気機関車史」ネコ・パブリッシング(2015)
本書は、国鉄蒸気機関車のうち、8620形、9600形に始まるいわゆる「制式蒸機」を扱った書物です。従来の蒸気機関車史の研究は、製造所や形式番号、所有者の変遷が中心でしたが、本書では、当時の技術資料などに基づいて、各機関車の設計思想や、設計の経緯、要素技術の具体的内容、国外の同種の機関車との比較が考察され、工学的な視点によって多角的な論考を加え、蒸気機関車のメカニズムの変遷や系譜を体系的にまとめた点に特色があります。蒸気機関車はすでに研究し尽くされた感がありますが、そうした固定概念を打破した著作として、島秀雄記念優秀著作賞に選定しました。
単行本部門 中村 光司「知られざる連合軍専用客車の全貌」JTBパブリッシング(2015)
本書は、終戦直後に日本に進駐した連合軍の鉄道輸送を行うため、連合軍に接収されて専用列車などに用いられた「連合軍専用客車」と呼ばれる一群の客車について、その全貌を明らかにした著作です。執筆にあたっては、「鉄道公報」や車両形式図などの基礎資料のほかに、関係者からの聞き取りや、故・星晃氏の旧蔵資料などの貴重な資料を交えて、これらの情報を集大成しています。連合軍専用客車については、これまでにもいくつかの著作物がありましたが、本書は、車種ごとの具体的な解説をはじめとして、その誕生から終焉までの歴史をバランスよく解説し、資料性の高い著作として、島秀雄記念優秀著作賞に選定しました。
定期刊行物部門 野元 浩「狭小トンネル用PS23形パンタグラフ」(電気車研究会『鉄道ピクトリアル』2015年12月号掲載)
断面の狭いトンネルで用いるためのパンタグラフとして開発されたPS23形について、トンネル断面との関係、電化の進展などの背景を交えて、わかりやすく解説しています。特に、架線高さとパンタグラフ高さの技術基準については、電気機関車の時代には問題視されなかった集電機構が、電車化に際して対策が必要となったこと、低屋根化車両への動きからPS23形の開発に至った経緯が、図や写真を交えて丁寧に解説され、さらに現在の多くの電車で採用されているシングルアームパンタグラフについても言及されています。PS23形のメカニズムの特徴をわかりやすく解説した著作として、島秀雄記念優秀著作賞に選定しました。
特別部門 「関西の鉄道」ほかの継続出版に対して(関西鉄道研究会)
雑誌「関西の鉄道」は、1978(昭和53)年に創刊され、以後、関西地区の話題を中心として30年以上にわたって出版が継続されています。また、「関西の鉄道」誌から派生した出版物として、「車両発達史」シリーズが不定期で刊行され、関西の私鉄各社の歴史や現況を紹介してきました。これらの著作物では、関西在住の執筆陣による長年の趣味活動の蓄積が存分に生かされ、また資料性の高い写真や図版を掲載するなど、安易にまとめられた出版物が多い中で、後世に残る記録の手本としても高く評価されます。「関西の鉄道」をはじめとするこれまでの地道な出版活動を評価し、島秀雄記念優秀著作賞特別賞に選定しました。