単行本部門 辻村功「鉄道メカニズム探究」JTBパブリッシング
本書は、鉄道技術に関する13のトピックスについて、著者ならではの視点と語り口で興味深く記述しています。これまで著者が蓄積してきた知識に基づく解説は、鉄道に対する著者の情熱がにじみ、豆知識的な部分も丁寧かつ的確に解説されています。特に音に関する2章は大いなる雑音も好きであれば心地よい音色であると捉え、鉄道趣味人の共感を覚えるところです。著者は電機メーカーに勤務する鉄道技術者として、鉄道技術の知識を体系的に取り上げており、技術随筆としても優れた著作です。また、著者自身による写真が厳選され、鉄道趣味者が知るべき内容が幅広く取り上げられている点を高く評価し、受賞作にふさわしい著作と判断しました。
単行本部門 鉄道友の会客車気動車研究会「日本の食堂車」ネコ・パブリッシング
鉄道友の会客車気動車研究会のメンバーによる共同執筆で、採り上げる車両の網羅性を重視して初出資料と写真を多用しており、わが国の食堂車の歴史が、これ1冊にすべて集約されている点が高く評価されました。また、車両形式の特集にありがちな形式や番号変遷の解説のみにとどまらず、室内やメニューの写真をカラーで豊富に掲載した独自性はこれまでの類書にもほとんど見られないもので、当時の世相をしのぶための歴史資料としても優れています。日本の食堂車を網羅し、これを体系的にまとめた点を高く評価し、受賞作にふさわしい著作と判断しました。
単行本部門 小関和弘「鉄道の文学誌」日本経済評論社
本書は、「鉄道への人のかかわり方」について文学作品の中から9つの切り口から考察し、その功と罪を利用者の目線から考察した労作です。鉄道の文学作品を題材とした著作はこれまでにも数多くありましたが、個々の作品と鉄道の関わりをエピソードとして紹介するにとどまっていました。本書は、幅広い作品を題材として、横断的、多角的に解説を加えており、ユニークな視点に基づく著作です。特に多彩な引用や、多方面にわたる知識、日頃触れる機会が少ない作品への行き届いた考察など、随所に著者の持ち味が活かされており、鉄道史の理解にも役立つ著作として、受賞作にふさわしい著作と判断しました。
単行本部門 鉄道の「知」を探る編集委員会「鉄道の「知」を探る」山川出版社
大学の鉄道研究会OBを中心としてまとめられた著作で、鉄道研究会の豊富な人脈と研究の蓄積が随所に発揮され、鉄道の奥深さを感じさせる事典としても優れた著作です。執筆にあたっては、多くの文献を参考としており、メンバーが撮影した貴重な写真も多用され、またオールカラーの書籍にもかかわらず廉価である点も高く評価されます。本書では、鉄道趣味者が知ってほしい諸外国の先進的な考え方なども示され、今後の鉄道趣味界のあり方を啓蒙する内容にもなっています。これまでの鉄道研究会OBによる団体著作は、記録的な著作や懐古趣味的な著作が一般的でしたが、鉄道趣味の新たな展開を啓発する内容を含む著作として、受賞作にふさわしい著作と判断しました。
定期刊行物部門 澤内一晃、星良助「北海道の私鉄車両」
(鉄道友の会『RAILFAN』2007年8月号~2012年6月号掲載)
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この連載は、明治40年の鉄道国有化以降に北海道に存在した鉄道、民営軌道43社の車両履歴を地元資料や公文書の調査に基づき明らかにした労作です。特に、私鉄の調査では、各社で統一した情報を入手することが困難ですが、丹念な調査によって一定の水準が維持され、従来の事業者ごとの鉄道史とは異なる視点を与えています。参考文献も鉄道事業者ごとに章末に記載され、今後の研究の発展を考慮した事典的な役割も果たしています。また、掲載された写真の多くも趣味者から提供された貴重な写真で構成され、趣味者のネットワークを活用した長年の地道な研究成果を高く評価し、受賞作にふさわしい著作と判断しました。
「機関車史研究会の一連の著作」(近藤一郎)に対して
蒸気機関車は、日本の鉄道趣味界でも古くから取り組まれていた研究対象でしたが、機関車史研究会の活動は、故・金田茂裕氏により創始され、近藤一郎氏によって継承されています。その研究手法は、海外の一次資料を収集した上で、丹念な考察に基づいて各車両の履歴や構造の変遷を明らかにするもので、わが国の機関車史研究をより高い水準へと引き上げる役割を果たしました。その成果は、『形式別国鉄の機関車Ⅰ~Ⅳ』(1984~86)、『日本最初の機関車群』(1990)といった膨大な著作物として公開され、鉄道趣味界に大きな足跡を残しました。また、金田氏の遺志を継承した近藤氏によって『クラウスの機関車追録』(2000)、『新編H.K.ポーターの機関車』(2011)が追録・補遺として出版されており、こうした一連の著作による功績を高く評価し、特別部門にふさわしい件名として選定しました。