ブルーリボン賞:京浜急行電鉄 1000形1890番台
京浜急行電鉄1000形1890番台は、2001年より導入された新1000形の20次車として投入された車両です。
車体は、片側3扉の18m級ステンレス製(先頭部のみ普通鋼製)で、側扉部・側窓部のインナーフレーム化や外板継ぎ目のレーザ突合せ溶接工法の採用により、凸凹が無くフラットで滑らかな表面に仕上げられ、同社伝統の赤+クリームホワイトで塗装されています。安全対策として、オフセット衝突・側面衝突時の車体変形を最小限に抑える構造となっています。
客室内は従来の1000形のデザインを踏襲し、白系を基調とした明るい空間にまとめられています。腰掛はロング/クロスの自動切り替え式が同社で初めて採用されました。一般席が赤系柄、優先席が青系柄の抗菌・抗ウィルス仕様で、全席にACコンセントが装備されています。乗務員室の後位には展望席として固定クロスシートが配されていますが、この箇所には幅が極小ながらも採光用の側窓が設置されています。またサービス度の向上を図るべく、車内トイレ設備(洋式ユニバーサル仕様と男性用の2カ所)が導入されました。そのほか先頭車には車いすスペース、中間車にはフリースペースが設置され、ユニバーサルデザインも積極的に採り入れられています。
機器類は、制御装置がハイブリッドSiC 2レベルVVVFインバータで、PGセンサレスベクトル制御が行われます。主電動機は全閉外扇式の採用によりメンテナンス性の向上が図られています。制動方式は回生ブレーキ併用全電気指令式ブレーキで、編成全体でネットワーク制御される方式となっています。機器類などの重量バランス・配置の見直しにより、編成構成は2M2Tに改められましたが、従来通り先頭車は電動車となっています。台車は乾式ゴム入り円筒案内軸箱支持方式のボルスタ式車体直結空気ばね台車で、乗り心地や走行性能など同社に最適化された従来型となっています。
1000形1890番台は、L/C腰掛や車内トイレ設備など同社で初めてとなる設備を設え、通勤・通学のみならず観光・イベントなど新たな車両用途を模索しているほか、最新水準の機器類を積極採用しつつ実績ある安定した仕様も踏襲しています。
チャレンジングな姿勢と堅実性を兼ねそろえたトータルバランスに優れた車両であり、多くの会員の支持を集めたことから、ブルーリボン賞に選定しました。
ローレル賞:東京地下鉄 17000系・18000系
東京地下鉄17000系と18000系は既存の車両の後継として導入されたもので、17000系は有楽町線・副都心線用、18000系が半蔵門線用です。2021年2月に17000系が、8月には18000系が就役しました。両形式とも、車体構造や搭載機器には共通点が多く、座席幅の拡大や全車両へのフリースペースの設置、ホームと車両の間の段差低減など、客室設備・バリアフリー設備のレベルアップが行われています。さらに、消費電力量を削減した機器を採用し、安全・安定輸送の取り組みとして脱線検知装置の導入や、TIMA(車両情報監視・分析システム)の導入による搭載機器の遠隔監視などが行われています。
外観のデザインでは、既存の車両のイメージを受け継ぎながらもアレンジが行われ、17000系では丸形の前部/後部標識灯を、18000系では直線的な前部/後部標識灯を採用し、走行路線のラインカラーに基づいた車体色とすることで個性を出しています。両形式とも、車体にはアルミニウム合金製オールダブルスキン構造を採用の上、前面・オフセット衝突に対する対策を強化、使用するアルミニウム合金の種類を極力統一してリサイクルにも配慮されています。
車内は、座席や吊手、床にラインカラーを用いた色使いとし、座席の表地には消臭・抗菌・抗ウイルス加工が施されたほか、荷棚や座席端部の袖仕切、貫通引戸には強化ガラスを使用しています。さらに、17インチワイド液晶式画面による車内情報表示器やセキュリティカメラも備え、放送設備の音質向上も行われています。また、運転台の計器類は2つのモニタ画面により表示されるほか、17000系ではワンマン運転設備を搭載、18000系もATO(自動列車運転装置)に対応した構造です。
編成形態は4M6T(17000系8両編成は4M4T)で、搭載機器では、素子に炭化ケイ素(SiC)を使用した制御装置と永久磁石同期電動機(PMSM)を採用、補助電源装置にはハイブリッドSiC素子を使用した上、並列同期/休止運転方式を採用し、消費電力量の削減を図っています。さらに、17000系の8両編成は主電動機の極数を6極から8極とし、高効率化が行われました。ブレーキシステムでは、編成統括ブレーキ制御方式を導入し、回生ブレーキの最大活用や雨天時の滑走抑制制御が行われています。また、台車はモノリンク式ボルスタ付台車を引き続き採用しています。
17000系と18000系は得票数も多く、サービス設備や搭載機器のレベルアップを積み重ねた点や、2系列を基本仕様の共通化による取扱い、メンテナンスの共通化を最大化するとともに、投入線区の独自性の両面を実現したことを評価し、ローレル賞に選定しました。
ローレル賞:京阪電気鉄道 3850形
京阪本線に特急列車が本格的に運行されるようになったのは1950年9月1日のことです。その後、特急色、鳩マーク(特急列車標識)、車内テレビ、空気ばね台車をつぎつぎに採用しました。そのようななかで、開始から今日まで継続的に装備してきたのが転換クロスシートです。1927年の1550型(のちの600型)に起源を求めることができ、1971年の先代3000系では自動転換装置を開発しています。
2017年のプレミアムカー8550形は社会的な要望でもある手軽な有料座席指定サービスを京阪間に定着させました。新造プレミアムカー3850形はこのサービスをさらに拡充させています。
車体はセミダブルスキン構造のアルミニウム合金製で、連結を行う妻面にオフセット衝突対策を施しています。金色帯は金属蒸着マーキングフィルムで、高い質感イメージを演出しています。
車内ではエントランスで電球色ダウンライトがスモーク色調の霞模様仕切ガラスを淡く浮かびあがらせている一方、客室では反射式白色室内灯が側天井の光拡散付き化粧板を鮮明に映えさせ、高級感のあるコントラストを醸しだしており、座席下部の床のカーペットには枯山水紋様を用いています。また、天井内部には空調装置に加えて、微粒子イオン発生装置と強制換気装置を搭載しました。
伝統の転換クロスシートを昇華させた回転式リクライニングシートは2列+1列の3列配置で、1040mm間隔で並びます。各座席のフィット感を向上させ、冬季の快適な乗車を実現すべく、京都寄り車端部4席の背もたれには着席者により操作可能なヒータも付き、居住性が8550形からさらに進化しています。また、側窓のLCD式出入口部表示器は複層ガラスの層間に液晶ディスプレイを内蔵しており、鉄道車両の窓用ガラス(車外向け)として世界で初めて採用しています。
京阪特急列車は転換クロスシートを備え、時代に呼応した幾多の細やかなサービスを提供してきました。その系譜を引き継ぎ、風雅な趣のある3850形プレミアムカーでは、通勤・観光のあらゆるシーンにおいて瀟洒で心地よい移動空間を楽しむことができます。その完成度の高さを評価してローレル賞に選定しました。
マスコミ向けに配布したニュースリリースは下記からダウロードできます(内容は同一です)。