ブルーリボン賞:近畿日本鉄道 21020系電車 [アーバンライナーnext]
2003年のブルーリボン賞は,有効投票投票総数4130票のうち,603票を獲得 して第1位となった近畿日本鉄道(以下,「近鉄」と省略) 21020系電車 「アーバンライナーnext」に決定しました。
この21020系電車は,近鉄の顔ともいえる名阪ノンストップ特急用に製作さ れた6両固定編成の車両で「アーバンライナーnext」と呼ばれています。 1988年に名阪ノンストップ特急用として製作された21000系「アーバンライナー」 は,登場以来15年が経過し,乗客のニーズの変化や車両技術の進歩は著しく, 将来にわたり高いサービスレベルを維持する必要性からこの21020系が作られ, 昨年12月23日の団体臨時列車から営業運転を開始し,本年3月6日のダイヤ変更 より定期営業運転を開始して,平日4往復,土休日5往復の名阪ノンストップ 特急に充てられています。
車体は鋼製で21000系「アーバンライナー」に比べて先頭部のエッジを下げた 流線型で,正面ガラスはセンターピラーを廃した大型曲面ガラスとし,この部分 を黒く塗りアクセントとしています。塗色はクリスタルホワイトを基調に窓下に オレンジの帯を巻き,裾部はベージュに塗り分けられています。
客室設備はアンケート等の結果,女性の利用が4割を占め,またビジネス以外 の利用が比較的多い点に配慮して構成されています。禁煙席指向が7割を占めること から,客室は全席禁煙とし,編成中2両毎に喫煙コーナーを設けており,専用 クーラーや空気清浄機により煙草臭が漏れないように工夫されています。 トイレについても,編成中2箇所に内装色が異なりベビーチェアを設けた女性 専用を設置し,また車椅子利用に配慮しさらにベビーベッドを設けた多目的トイレ を1箇所設置しています。
本系列の最大の特徴は「ゆりかご形シート」と呼ばれる座席です。従来の リクライニングシートとは異なり,背もたれが倒れると同時に座面後部が沈み 込む構造となっていて,凹形状のクッション材と相まって,体へのフィット感が 高められています。また従来車より座面を下げて,背の低い乗客が座りやすい よう配慮しています。
デラックスシート車(名古屋方先頭車1両)の座席は幅500mmの電動リクライ ニング式で,1人掛け3列配置となっています。最大リクライニング角度は42゜ です。ヘッドレストには読書灯が装備され,さらに可動式の枕が設けられています。 レギュラーシート車の座席は2+2の配置ですが,中間のアームレストが個々の 座席に別々に設けられているのが特徴です。最大リクライニング角度は37゜です。 このような特徴が,多くの鉄道愛好家に支持されるとともに選考委員会でも評価 され,2003年のブルーリボン賞に選定しました。
なお,これまでの近鉄の名阪ノンストップ特急用車両は,1960年の10100系(ビスタ カー),1979年の30000系(ビスタカーIII世),1989年の21000系(アーバンライナー) と,いずれも当会のブルーリボン賞に選定された車両です。
2003年ローレル賞に選定された2車種は,いずれも超低床路面電車の実現と普及と いう同じ目的をもった車両ではありますが,そのアプローチについては大きな違い があります。いずれの車両についても,国内の路面電車の復権への一助となると 共に車両としての完成度も高いと判断したことから両車を選定することに決定した ものです。
ローレル賞:岡山電気軌道 9200形電車 [MOMO]
岡山電気軌道9200形電車「MOMO」は,海外の超低床路面電車をベースとした新潟 鐵工所(現・新潟トランシス)製の全長18m,2車体2台車構造の超低床路面 電車です。
車体はボンバルディエ社製「インチェントロ」シリーズをベースに,地元出身の デザイナー水戸岡鋭治氏によるインテリアデザインを取り入れたものであり,木製 座席,多数の補助座席,簾状のカーテン等,多くの特徴を有しています。下回りは 同じボンバルディエ社製でも熊本市9700形のベース車となった「GT」シリーズを ベースに狭軌化したもので,このような組合せは我国独自のものです。電装品も ほぼ国産化されており,欧米の技術をベースにしながらも我が国の鉄道事情に 適応させる工夫が見られる車両と言えます。
また,当車は車輪規格等,JR線にも乗入れ可能な能力を有しており,この事が 現在行われているJR西日本の地方都市路線LRT化の議論のきっかけになって おり,路面電車の将来に渡る可能性を提示した車両としても評価できます。
さらに,当車は,製造に際し沿線自治体,市民団体の提案を受ける形を取り,な おかつ,製造費の一部を市民からの募金によるというこれまでにない方式を採って います。当車内には寄付者一覧のプレートも取り付けられており,我が国の鉄道 車両整備に新しい市民参加の形態を提示したと言えます。その結果,岡山電軌という 一事業者の範囲に留まらず,岡山の都市全体のイメージリーダーとして高く認識 され,また活用されていることについて,高く評価できるものです。このような 理由から,2003年のローレル賞に選定しました。
ローレル賞:鹿児島市交通局 1000形電車 [ユートラム]
鹿児島市交通局1000形電車「ユートラム」は,我国初の純国産超低床路面 電車です。アルナ工機(現アルナ車両)社製で,同社からは,超低床路面電車と して「リトルダンサー」シリーズの3種類が登場していますが,当車は「リトル ダンサーA」と呼ばれる車種に分類され,その3車体版のリトルダンサーA3 と呼ばれます。
台車,運転台を有する両端部と無台車の客室部よりなる,他例のない特殊な 3車体構造をもっており,特殊構造の台車を使用せずに7.6m×2.25mと いう極めて幅広で,かつ完全低床の客室を実現しました。ほぼ同時期に,リトル ダンサーシリーズの車両として伊予鉄道2100形「リトルダンサーS」,土佐電鉄 100形ハートラム「リトルダンサーL」も登場しましたが,鹿児島の1000形は最も 超低床車としての理想を追求した車両となっていることが高く評価されました。
また,この低床車体構造の実現に際し,従来不可欠であった空気圧縮機・空気 配管の機器設置スペースの確保がネックとなりましたが,機械ブレーキとして それらを必要としない,モーター作用による電動バネブレーキを採用し,その 結果として完全エアレス車両となったことも大きな特徴となっています。特に 電動バネブレーキの実用化は,長年空気ブレーキが主体であった我国の鉄道 車輌ブレーキシステムの発展に新たな可能性を提示したものであり,諸外国で 主流の油圧ブレーキとは異なる道を切り開いたものとして高く評価できるもの です。このような車両を一度に3両導入したことは,一過性の特殊車両として ではなく,都市内基幹交通機関の路面電車として,十分に活用していく意図が 見える点も評価され,2003年のローレル賞に選定しました。
参考:2003年ブルーリボン・ローレル賞対象車両
鉄道名 | 形式・系列 | |
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1.
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北海道旅客鉄道 | 785系500番代電車(uシート車) |
2.
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北海道旅客鉄道 | 789系電車 |
3.
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函館市交通局 | 8100形電車 |
4.
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日本貨物鉄道 | EH200形電気機関車 |
5.
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東日本旅客鉄道 | クハ205形3100番代電車(2WAYシート車) |
6.
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東日本旅客鉄道 | E231系500番代電車 |
7.
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小田急電鉄 | 3000系電車 |
8.
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東京急行電鉄 | 5000系電車 |
9.
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京浜急行電鉄 | 新1000系電車 |
10.
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相模鉄道 | 10000系電車 |
11.
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江ノ島電鉄 | 20系電車 |
12.
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名古屋鉄道 | 300系電車 |
13.
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近畿日本鉄道 | 21020系電車 |
14.
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京阪電気鉄道 | 10000系電車 |
15.
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岡山電気軌道 | 9200形電車 |
16.
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伊予鉄道 | 2100形電車 |
17.
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土佐くろしお鉄道 | 9640形気動車(一般車) |
18.
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土佐くろしお鉄道 | 9640形気動車(オープンデッキ車) |
19.
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土佐電気鉄道 | 100形電車 |
20.
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鹿児島市交通局 | 1000形電車 |